みなさんこんにちは!Jです。
朝夕の冷え込みは、冬の訪れを感じさせますね。街にはもうクリスマスのイルミネーションが灯って、なんとなく気ぜわしい季節になってきました。空気が乾燥していますから、保湿に気を付けて、風邪にご注意ください。
さて、今日はあるニュースリリースをご紹介します。
理化学研究所の11月7日付のプレスリリースです。
マウスの遺伝子のうち、たった1つの文字が違うだけで、雄雌とも不妊になってしまうマウスが発見されたというニュースです。
理研 プレスリリース
このマウスは、がんが発生する仕組みなどを調べるために、ある遺伝子の最小単位である塩基の1文字だけを変化させたマウスを作ったことによって、いわば偶然発見されたマウスです。
β-カテニン遺伝子という名前の遺伝子は、発がんの仕組みなどに重要であることが知られています。
遺伝子というのはいくつかのアミノ酸の並びで構成されているので、この研究班はこの遺伝子のアミノ酸の1つ1つがどんな役割をしているのか、詳しく調べようとしていました。
実は、理研には独自の「マウスのゲノム情報を1文字(1塩基)レベルで機能解析するシステム」があって(そんなシステムがあること自体がスゴイのですが[emoji:e-420][emoji:e-420][emoji:e-420])、それを使ってβ-カテニン遺伝子の1文字(塩基)の突然変異によってアミノ酸配列に違いが生じる変異マウスを探したところ、7系統が発見されました。
今回のマウスはそのうちの1系統で、アミノ酸配列の429番目のシステイン残基がセリン残基に、1文字(1残基)だけ変化した系統(C429S)なのだそうです。
β-カテニン遺伝子というのは、生まれてくるために、そして生きていくために絶対に必要な遺伝子なので、この遺伝子に何か機能不全があった場合には、局所的な症状が出るのではなく、きっと生きていられなくなるようなことが起こるだろうと推測されていました。
しかし、マウスは元気そうです。(ニュースリリースにはそうは書いてありませんが[emoji:e-348])
それで、このマウス同士をかけあわせてみたところ、なぜか妊娠しませんでした。
予想外のことが起こったのです。
どうしてなんだろう?と思ったらしく、今度は体外受精を行ってみたところ、精子も卵子も正常であることが分かったのです。
でも、妊娠しない。つまり、不妊のマウスです。
なんでだ?というわけで、(おそらく解剖をして)調べたところ、精液を分泌する精囊(せいのう)と、外性器と子宮をつなぐ膣(ちつ)の形状異常であることが分かりました。
オスでは精囊の形が変わったために、射精時の精子の輸送経路が変わって不妊になり、メスでは膣の形成不全によって膣閉塞になっていたのが不妊の原因だったのです。
精囊の形が変わることで精子の輸送経路まで影響が出てしまい、不妊になってしまう変異マウスの発見は世界で初めてです![emoji:e-319][emoji:e-319][emoji:e-319]
同時に、たった1つの遺伝子の変異で、精囊も膣も両方の形態が変わってしまうマウスも世界初の発見です。[emoji:e-460][emoji:e-460][emoji:e-460]
マウスが不妊になったからって、人間と関係ないでしょ?と思われるかもしれませんが、実はこのβ-カテニンタンパク質のアミノ酸配列は、ヒトとマウスでは100%同じなので、マウスの解析結果が、そのままヒトにもあてはまる可能性も高いのです。
このマウスたちは、他に異常はまったくなく、寿命を全うしたそうです。
これを人間に当てはめてみると、精子も卵子も異常がないのに、なぜか妊娠しない・・・というカップルの不妊理由が、この遺伝子の機能不全であるかもしれないということになります。
いままで、この遺伝子が不妊の原因になるとは全く予想されていなかったので、すでに遺伝子検査をしているかたでも、この遺伝子は調べられていないということになります。
将来、ヒトでもこの遺伝子の機能不全が調べられるようになれば、今まで原因不明とされてきた不妊理由の1つが突きとめられますし、さらに研究が進めば、それに対する治療も可能になるかもしれません。
今回はちょっと難しい話になってしまい、申し訳ありません。
ただ、研究の最新情報をお伝えしたいと思った次第です。
実は、このニュースリリースの存在を教えてくれたのは、私の通っている大学院の教授です。
「不妊症や不育症を研究テーマにしているのなら、これくらいのアンテナは張っていないとダメだよ」とピシリと諭されてしまいました。[emoji:e-351][emoji:e-351]
研究というのは、基本的には世界中の誰もまだやっていないことをやるものですから、いつも「すでに分かっていることは何で、どこからが分かっていないのか」と意識する必要があります。
今回の発見は、私のように臨床を続けながら、一方で研究をかじっている人間には到底なしえるはずもない成果です。(ちょっと愚痴になってしまいました[emoji:e-441])
このような研究から、不妊症や不育症の原因解明と治療法が生まれてくることを、心から願っています。
このブログを読んでくださったかたに、一日も早く、かわいい赤ちゃんが授かりますように!!