みなさんこんにちは!Jです。
今週も、続きを書いていきます。
まずは、妊娠の条件をおさらいしておきましょう。
1.卵胞が成熟する
2.排卵する
3.卵管の先端(卵管采 らんかんさい)が卵子をキャッチする
4.排卵したあとの卵胞の膜から黄体ホルモンが出る
5.子宮内膜がふかふかな、着床しやすい状態になる
6.精子が膣内に射精される
7.頸管粘液が潤沢になっている隙間を伝って、精子が子宮内に侵入する
8.子宮から卵管へと精子が進んでいく
9.卵管の端で精子と卵子が出会い、受精する
10.分割を繰り返しながら卵管を下り、子宮にたどり着く
11.胚盤胞という状態まで育った”卵”が子宮内膜に着床する
今回は、このうちの2.排卵するについて書いてみます。
2.排卵する
1.卵胞が成熟する
が、問題なく進んだとしても、排卵しなければ妊娠はしません。
どんな場合に排卵しないのでしょうか?
一番多いのが、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群 たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)といえます。
これは、簡単に言うと卵胞(らんぽう)がはじけられないほど卵巣の膜が硬くなっている状態のことです。
通常なら、卵巣の表面で水風船みたいに大きくなった(20ミリくらい)卵胞は、のばされて薄くなった卵巣の膜ごと破って排卵します。風船の中の卵子はわずか2ミリ。それが卵管采に捕らえられることで卵子は次の段階に進みます。
これが通常の排卵ですが、卵巣の膜が厚いと、それを破って排卵することができず、卵胞は卵巣の中に残されたままになってしまいます。
卵子は表に出られないので当然妊娠しません。
PCOSは、婦人科のエコーで、卵巣に「ネックレスサイン」という特徴的な形が見えることで診断されることが多いです。
排卵できなかった卵胞達がいくつもいくつも連なって、まるでネックレスのように見えるので、そう呼ばれています。
典型的なPCOSのサインを挙げておきます。
○エコーで「ネックレスサイン」がみられる(両側の卵巣にそれぞれ12個以上)
○卵巣が少し腫れている(卵巣は通常クルミくらいの大きさ。それより大きくなっている)
○月経周期が長い
PCOSでも程度が軽い場合にはたまに膜の薄いところを破って排卵することがあるので、絶対妊娠しないわけではありません。
また、PCOSと診断されたかたは、むしろART(高度生殖医療~体外受精など、卵を一度体外に取り出す治療~)に移行した場合にはたくさん卵が取れるので、思い切ってARTに踏み切るのも良いと思います。
ただ、もともとたくさん卵が育ちやすい体質なので、ホルモン剤をたくさん使うと卵ができ過ぎてしまって、卵巣が腫れるほど過敏に反応してしまいやすいという一面も持っています。
それをOHSS(卵巣過剰刺激症候群~らんそうかじょうしげきしょうこうぐん~)と呼び、本当にシリアスな場合は命にかかわります。
とはいえ、普通はPCOSの患者さんにはドクターも用心しながらホルモン剤の投与を行ないますので、怖がり過ぎる必要はないのですが、卵巣が腫れ過ぎて採卵中止になることは珍しくありません。
PCOSと診断されたかたが採卵に臨む際には、以下のことに気をつけてください。
○お腹が張る感じがする
○気持ち悪い、吐いてしまう
○おしっこが出ない
○息が苦しい
○下腹部が痛い、つるような感じがする、歩くと響く
○急に太ったのかしら?と思うくらいお腹が出てきた
○気を失うかと思うほど、激しく急激な腹痛
○お腹が張る感じがする
このくらいの症状なら、女性ホルモンを投与されると普通に起こる副作用なので、それほど心配ないのですが、症状があれば必ずドクターに伝えてください。
○気持ち悪い、吐いてしまう
○おしっこが出ない
○息が苦しい
○下腹部が痛い、つるような感じがする、歩くと響く
ここまで症状が進むと、卵巣が腫れている可能性が大きいです。至急クリニックに連絡をして指示をあおぎましょう。
○気を失いそうなほど激しく、急激な腹痛
これは、卵巣が大きく腫れ過ぎて、卵巣茎捻転(らんそうけいねんてん)という状態になっていることが疑われます。
卵巣の重さに耐えかねて(通常はくるみくらいの大きさなのに、握りこぶしくらいの大きさになることもあります)茎の部分がねじれ、その先まで血がいかなくなっている状態で、そうなると一刻を争います。
命にかかわりますし、気を失ってしまうこともあるのでクリニックではなく、救急車を呼んでください。
最悪の場合、卵巣を摘出するしかない場合もあります。
もし、周りに人がいたら、救急車を頼むついでに「ホルモン剤を使っているので、卵巣が腫れたのかもしれない」と伝えておいてください。
そうしておけば、万が一あなたが気を失っても真っ先に卵巣の検査してくれるでしょうから、対応が早くて済むはずです。
ずいぶん脅してしまいましたが、緊急搬送されるほどの非常事態に陥ることはまずありません。
重症化するのは、ホルモン剤を使っている人の1%~3%、亡くなる確率は40万分の1です。
はっきりいって、安心できる数字です。
ただ、リスクは前もって知っておいたほうが安心ですし、どこまでが”よくある不快な副作用”であるかの判断もしやすいと思います。
PCOSのかたは、ARTにステップアップした場合には、卵がたくさん摂れるという点で有利だということも忘れず、ホルモン剤を怖がり過ぎないでくださいね。
一方、「できるだけ自然に妊娠したい」という希望がある場合には、手術が勧められることもあります。
これは、腹腔鏡を使って、卵巣の厚くなった膜を部分的に破っていく手術です。
「腹腔鏡下卵巣焼却術~ふくくうきょうからんそうしょうきゃくじゅつ~」と言います。
卵巣の膜に、レーザーや電気メスでいくつも穴を開けていくことで、その薄くなったところから排卵できるようにするものです。
腹腔鏡なので、お腹には1センチちょっとの傷跡が3つ残るだけで、開腹手術より体の負担は少なくてすみます。
ただ、焼却手術を受けるのなら、ARTのほうが体の負担は小さいように思います。ARTなら入院の必要もないし、傷も残りません。
「どうしてもARTはイヤ!」というのでなければ、手術よりARTに踏み切るほうが、良いように思えます。
繰り返しますが、軽度のPCOSの場合には自然妊娠も可能です。
ご自分がどの程度のPCOSなのか、ドクターとよく相談して、最善の方法を探ってくださいね。
ちなみに、うちの治療院では中程度のPCOSの患者様が自然妊娠なさいました。
彼女は昔から生理不順で、ピルを使わないと生理が来ず、焼却手術を勧められていました。
そこで、気分転換を兼ねて通院をお休みし、鍼灸治療を続けたところ、薬がなくても生理が来るようになり(ここまでで3ヶ月くらいかかりました)、それから8ヶ月で自然に妊娠されました。
個人差のあることですので、PCOSのかたが誰でも鍼灸だけで妊娠できるわけではありません。
とはいえ、PCOSと診断されたかたには励みになる一例ではないでしょうか。
排卵・・・その神秘のしくみに敬意を表しつつ、今日はここまで。